糖尿病はグルカゴンの反乱だった

江部先生のブログで紹介のあった「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」を読んでみました。

「インスリンの欠乏」より「グルカゴンの過剰」が糖尿病の病態形成に主役を演じている、という説が研究成果を交えて解説されています。

これは斬新です。この内容の評価は、しらねのぞるばさんやhighbloodglucoseさんなど蘇陽のある方にお任せしたいところです。

グルカゴン抑制薬が新薬として検討されているようですから、その宣伝も目的にした書籍なのかもしれません。

グルカゴン抑制につながる食事として、
オリーブオイル
ポリフェノール
レジスタントスターチ
などが挙げられています。これは、あまり目新しいものではありませんでした。

脂肪や蛋白の多い動物性の食品に替えて、難消化性でんぷんや食物繊維を多き含む食事をとり続けることが、腸内細菌を最も健康的な状態に保ち、発酵を高め、短鎖の脂肪酸→インクレチン経路を活性化し、インスリン/グルカゴン比を高めることで、血糖改善につなげることができる方法であると言えるのです。

とまとめられています。

ふと思ったのですが、PBWFなど植物性食品中心の高炭水化物・低脂肪食が糖尿病に有効であるのは、グルカゴン過剰の抑制の効果によるものであるのかもしれません。

糖質を大量にとりながら血糖コントロールがよくなることはどうも理屈に合わないと思っていましたが、糖尿病の原因がグルカゴン過剰で、植物性食品中心の食事でグルカゴン過剰が抑制され、血糖コントロールがよくなる、という説明であれば、糖質摂取でも血糖コントロール可能であることの説明にはなるように思えました。

さらに、糖尿病の背景として、インスリン分泌低下、インスリン抵抗性のほかにグルカゴン過剰があるのであれば、人それぞれ様々な治療法や食事療法があり、2型糖尿病とひとくくりにすること自体に問題があるのかもしれません。

他人事的には面白いのですが、患者当事者としては早くメカニズムを解明し治療法を確立し、自分もその恩恵に預かりたいと願っています。

何が正しいのかはわかりませんが、

「糖質60%程度のカロリー制限が唯一の食事療法」であるというのは、明らかに間違っていると思っています。

コメント

  1. しらねのぞるば より:

    テキサス大学 Unger教授が提唱した,グルカゴン中心説ですね.

    糖尿病といえば,インスリンにのみ目を奪われて,その拮抗ホルモンであるグルカゴンがほとんど省みられていない時代に,Unger博士の論文は強烈なインパクトがありました.

    Glucagonocentric restructuring of diabetes:a pathophysiologic and therapeutic makeover
    糖尿病はグルカゴン中心に再構築すべき

    R. H. Unger et al.,
    The Journak of Clinical Investigation Vol.122(1) 4-12 ;2012

    https://www.jci.org/articles/view/60016

    『糖尿病はグルカゴンの反乱だった』
    この本の出版は知りませんでした, 読んでみます.
    著者の稙田(わさだ)太郎先生は,30代の頃に このUnger博士の元に留学していましたから,博士の数々の論文にも名を連ねています.

    Effect of 2-deoxy-D-glucose on plasma somatostatin levels in conscious dogs
    https://academic.oup.com/endo/article-abstract/108/4/1222/2591614

    Unger博士の論文で一番衝撃的だったのは,糖尿病はインスリンさえ考えていればいいと考えられていた時代に,グルカゴン受容体をノックアウト(=DNA操作により遺伝子欠損させた)したマウスは,薬物で膵臓β細胞を破壊されても,つまり全くインスリン分泌できないのに,血糖値が正常であることを見出したことです. これは『血糖値はインスリンによってコントロールされている』という既成概念を根底からひっくり返すものでした.グルカゴンに反応しないマウスは,インスリンがなくても血糖値は正常なのです.

    これをきっかけに グルカゴン ルネサンスと呼ばれる時代が到来したのですが,ここ数年は 少し勢いがそがれています.

    その原因の一つに,『現在の測定法は,グルカゴン濃度を正しく測定できているのだろうか?』という深刻な課題が発生したからです. グルカゴンは,その前駆体であるプログルカゴンが分裂して生成するのですが,非常によく似た化合物と共存しており,現在 使われている RIA 法(*)では,そういった類似物質を区別できていないことが明らかになっています.RIAはインスリン濃度測定でも使われており,こちらは問題ない測定精度なのですが,グルカゴンにはどうも分解能不足なのです.そして過去の研究では,この不正確なRIA法でグルカゴンを測定していたため,どこまで真実に迫れていたのか 再検証が必要になってしまいました.

    RIA=Radio Immuno Assay ;放射ラベル化した特定抗体をターゲットに選択反応させて,ごく微量の濃度でも測定可能.

    この点を改良すべく,群馬大学 北村忠弘 教授が サンドイッチELISA法という測定法を開発して,いよいよこれで グルカゴン研究が本格スタートかと,私も期待しましたが, つい最近,この方法でも やはり 他の化合物を一部 誤測定してしまうことがわかり,なお改良が進行中です.

    なお,日本の学会もグルカゴンには注目しており.2014年の第57回 糖尿病学会 シンポジウム20では『グルカゴン ルネツサンス』と題して;

    S20-l Molecular mechanisms of glucagon secretion

    S20-2 Intraislet regulatio11 of α-cells in glucagon secretion and islet maintenance

    S20-3 Characterization of a pancreatic alpha-cell model of type I diabetes employing metabolome a11alysis

    S20-4 Diabetes in the absence of glucagon

    S20-5 Modulation of glucagon and insulin secretion by DPP-4 and DPP-4 inhibitors

    S20-6 Newly developed glucagon sandwich ELISA revealed that plasma glucagon levels increase after glucose loading

    という講演もあり,それぞれ聞きごたえのあるものでしたが(6番目の講演は 群馬大 北村教授),やはり本格的な解明はこれからだという雰囲気で,講演では主に『これから 取り組むべき課題』を列挙したような内容でした.

    • ホリデー より:

      詳細な説明ありがとうございます。
      測定法など専門家しかわかりませんから、深謝いたします。
      早く測定法が開発されて研究が進むことも期待します。