糖尿病治療とよく似ていると思ったこと-脚気

脚気論争について初めて知ったのは、「糖尿病治療」の深い闇(桐山秀樹 2011)です。その時はあまりピンとこなかったのですが、ネット検索をして読んだ情報でこれは糖尿病と似ている、改めて思いました。

以下はネットで読んだ情報と上記の書籍に書かれていた内容を要約、加工したものです。

脚気という病気は、西洋医学では昔は「不治の病。対策法もなし」と言われていたようです。
「脚気」は今ではビタミンB1の欠乏症というのが原因とわかっていて、今ならまずならない病気ですが、明治時代、白米を食べる軍隊でよく発生しており、そして死亡率が非常に高いものでした。明治時代、軍隊でも脚気が多く対策が必要とされていました。そのころの日本の医学の主流は、「病気の原因はすべて細菌である」というドイツ的な考えでした。
ある海軍軍医がイギリス海軍には脚気患者があまり発生しないことに目をつけて、「脚気の原因は栄養不足からじゃないのか?」という仮説を立てて、実際に海軍の食事をパンや麦飯に変更すると脚気患者が激減しました。陸軍は、「病気の原因はすべて細菌である」というドイツ的な考えだったため、この仮説に強く反発しました。その主力が陸軍軍医でドイツに同一に留学した森鴎外です。
健康な若い兵士を対象に、白米のみ、麦混合飯、パンと肉の洋食の3種類に分けて8日間食べさせ最新のドイツ流衛生学による検査を行ったところ、全ての点で白米が優れているとしました。
その後の日露戦争では脚気患者25万人(死者27000~28000人)に対して、海軍は100人弱、死者0でした。それでも、ドイツ医学に凝り固まっていた日本の医学会はこの軍医の仮説に反発し、認めませんでした。
「脚気=ビタミン不足説」が正しかったと証明されたのは、大正時代になって鈴木梅太郎がビタミンB1を発見して研究が進んだ昭和初期のことだそうです。
ちなみに日本漢方では「白米を食べるのをやめてそばを食べれば良くなった」ということがわかっていて、脚気患者にそばを食べさせる治療法が江戸時代からあり、脚気に苦しんでいた明治天皇も海軍のアドバイスで漢方の食事療法で実際に良くなったということがあったそうです。その事実も当時の日本医学会には無視されました。

自分の思い込みにとらわれてその思い込みと異なる事実に目を向けないことの危険を示唆しているように感じます。
もし森鴎外が、「白米を食べるのをやめてそばを食べれば良くなった」という事実から自分たちの考えや知識を疑うことができたら、日露戦争で多くの若者を脚気で死なせることはなかったのかもしれません。ドイツに留学しその最先端医学知識を得て、「病気の原因はすべて細菌である」というアプローチの有効性を知っていた鴎外にとって、細菌以外に病気の原因があるという説はそれだけで科学的でない、根拠のない話と取り扱ったであろうことは想像に難くありません。
糖質制限で薬なしで良好な血糖コントロールができた患者がいてもその事実に目を向けない、という今の日本の糖尿病治療の考えとよく似ていると感じました。
また、最新科学は正しいという認識(この話であれば「病気の原因はすべて細菌である」という考え)も時に間違うことがある、という教訓でもあります。
100年近く前のことでその当時の科学の水準が低かったのだ、と考える人もいるかもしれませんが、私はいつも思うのは「卵を食べるとコレステロール値が高くなるから食べ過ぎるな」というような説が覆ったのはたった数年前です。今正しいとされている栄養学とか医学の考えも正しいとは限らないのです。(確率的には今正しいとされていることの多くが実際には正しいだろうからまた話が厄介になるわけですが)

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