糖尿病糖質制限に患者が考えたこと5-エビデンスと完治した話

エビデンスの枠組みへの疑問

エビデンスレベルというのはあくまで医学が作った人事的枠組で絶対的なものではない。そもそもメタアナリシスのような問題発生の可能性がある手法が高位のエビデンスレベルということは、それよりレベルの低いものの信頼性が低いということの証拠ともいえる。
このように考えています。

メタアナリシスは、恣意的な論文選択の可能性がある。精度の低い研究が入っていることでメタアナリシス全体の精度が低くなることがある。そもそも違う手法で得られたデータを統計的に合算する方法には様々なノイズがはいりこむ可能性はある。

死亡率のような総数が極めて大きくないと有意差が判定できない事象についてメタアナリシスを使わざるを得ないのはわかるが、その方法しか取れないからそうしているのであって、その方法が良い方であるということではない(総数の少ない一つの研究結果よりはまだまし、ということ程度なのでは?)

有意差の程度の問題

統計的に有意である、ということと実際にどの程度の影響があるかは別の話です。
標本数を多くとればとるほど、些細な差でも統計的に有意である(差がある)ことは検証できます。これは統計を実際に使ってデータ分析すればすぐにわかります。

これは架空の例ですが

高速道路を200㎞移動するのに、高速バスと自家用車とどちらが危険か統計的にデータをとったら、自家用車を使った場合の死亡率が1.3倍高かったとします。
では、ある人が移動するのに、自家用車を使った方が危険、ということになるのでしょうか。
20年間事故なしのプロドライバーと、免許取りたての若者と、ブレーキとアクセルを間違えて追突事故を起こしたことのある老人では、1.3倍以上の危険度の差があるのではないでしょうか。
平均値の違いより、個人差が大きいであろう例として考えてみました。

食事療法はまさに個人差が大きいのではないでしょうか。
また、糖尿病とひとくくりにされても個人によって反応はずいぶん異なることもあるのではないでしょうか。

反対の結論のエビデンスがある

糖質摂取比率が高いと、総死亡率が高いという研究もあれば、総死亡率が低いという研究もあり、かつ統計的に有意差が検証されているという。

要するにこれらの研究は、科学的に真実を突き止めた、ではなく、自説に有利な状況証拠を見つけた、という程度のことに過ぎないのではないでしょうか。

江部先生の「男50代からの糖質制限」の冒頭に、ランセット2017.8.29に掲載された、糖質摂取量が高いとそう死亡率が高いという研究を取り上げて、「糖質制限の正しさを決定的に証明した研究だと言えます」とありますが、、、
決定的に証明するというのは、日本糖尿病学会も従わざるを得ないようなものではないか、と思います。
このような研究ひとつでは、内容のいかんにかかわらず決定的証拠となっていないのではないかと思います。

完治した人がいます、という情報

「私はこの方法で完治した」「同じ方法を試した人も完治した報告がある」、このような情報は、統計的データより訴求力を感じることがあります。(私はそうです。信じやすいたちなので)

かりに、糖尿病を完治する方法があるのなら、患者はほとんどの人がHbA1c5%程度もしかしたらそれ以下になっているはずですから、医学の言うエビデンスレベルが低くても信憑性のある事実・データになります。

完治する方法と言われている方法は、

完治した個別事例は沢山出てきても、大量なデータとして出て食たものを見たことがない
大量なデータになると、統計的に有意差がある、程度の話になっている

のが実態のように思います。

誰でも完治する方法なら、もっと早く広まって多くに支持を得ているはず、と思います。

糖質制限と大量のデータ・事例

実は、これは糖質制限についても以前から思っている疑問です。
(糖質制限は、完治する方法ではなく血糖コントロールが可能で合併症予防の方法ですが)

糖質制限は理にかなっているし、自分もほぼ薬なしでHbA1c9.6から5.7まで下がっていますから効果は大きいはず、と思うのですが、そうであれば自別のクリニックの臨床事例でも、日本糖尿病学会とはことなる圧倒的な数字が出てきてよいのではないか、と思うのです。

が、今のところそのようなデータを見ていません。

ということは、糖質制限も大量のデータをとると、それほど画期的な方法ではないのかもしれません。

コメント

  1. すぱ郎 より:

    こんにちは。いつも興味深く拝見しています。本当にありがとうございます。
    糖尿病患者の人数や経過や数値のデータはたぶん、病院でカウントされたものから採用されてると思うのですが、もしそこで数値を良好に保っている患者さんは一体どんな位置に収まっているのでしょう。(基本治らない訳ですから通院し続けているのかな)
    さらに大多数の病院ではカロリー制限を推奨しているはずですから、存在しない筈の糖質制限の患者さんとそうでない患者さんの区別をしているのかもよく解りません。
    となると、どのレベルの糖質制限を実行し、さらに数値を良好に保っている人の実態などは更に未知なような気がします。
    良くなっている人が多ければ嬉しいですが。

    • ホリデー より:

      すぱ郎さん
      コメント、ありがとうございます。
      ブログ、拝見しています。
      ご指摘の通り、糖尿病患者の実態の数字は公表されているものがないですね。

    • しらねのぞるば より:

      すぱ郎様,失礼しました. 江部先生のブログに紹介する前に,一言お知らせしようとしたのですが,コメント入力の際に私のPCからは延々とタイル画像認証が続き,どうやらコメント入力に失敗していたようです.

      さて

      >そうであれば自別のクリニックの臨床事例でも、
      >日本糖尿病学会とはことなる圧倒的な数字が出てきてよいのではないか

      >どのレベルの糖質制限を実行し、さらに数値を良好に保っている人の実態などは更に未知

      この件ですが,小数データながら,下記の報告があります.

      【1】今年の 日本病態栄養学会;ポスター発表 P-002より
      秋田県の病院で,入院患者に糖質制限についてアンケートした報告です.
      人数は65人.平均年齢は67歳.全員が糖尿病ではなく,そのうち21人が糖尿病,残り44人は糖尿病以外での入院患者です.

      なんと糖尿病の人は21名中16名(76%)が『糖質制限食を知っている』と回答,しかもその内10名が『現に糖質制限食を実行している』とのことです.

      しかも 糖尿病ではない人ですら 44名中16名が『糖質制限食を知って』いて,4名が『現に糖質制限食を実行中』とのこと.

      【2】また同じく今年の 日本病態栄養学会;口演発表 O-139では
      「低糖質パンを病院で作り,これを糖尿病食として提供している」の例が報告されていました.(このパンは病院内の売店でも販売)

      【3】さらに 同じく今年の 日本病態栄養学会;口演発表 O-144では
      講演後の質疑応答で「最近では来院する糖尿病患者の方が 食品の糖質量をよく把握している」などというやりとりもありました.

      つまり,糖尿病と言われた人は かなりの人が,学会が何と言おうと,主治医がどれだけ脅かそうと,自分で調べて糖質制限食のことを知り,実行していると思われます.医者は,患者に糖質制限食をしていると告げられても,それをカルテに書くとは限りませんから,統計にはあがってこないのでしょう.

      さすがに日本糖尿病学会もいつまでも糖質制限食を無視できないでしょう.そういう時代になってきたと思います.