空腹時血糖値110未満の根拠-合併症は防げるのか

空腹時血糖値について、日本糖尿病学会の合併症を防ぐ目標値は130未満、糖質制限の糖尿病治療の目標値(江部先生)は110未満です。これで合併症が防げるのでしょうか。

糖尿病学会の目標値は、日本での糖尿病の大規模臨床研究である熊本スタディが参考にされているようです。江部先生も空腹時血糖値についてはこの熊本スタディを参考にされているかもしれません。

熊本スタディについては糖尿病ネットワークに記事を参考にさせていただきました。

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熊本スタディの基準値(合併症を発症・進行させない)

熊本スタディでは、合併症を発症させない、進行させない値として
・HbA1C:6.5%未満
・空腹時血糖値110未満
・食後2時間値180未満
としています。(英文のアブストラクト(要約)ではto prevent the onset and the progression of diabetic microangiopathy となっていました)

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熊本スタディの基準値は信頼できるのか―空腹時血糖値の例で考える

熊本スタディの枠組み

熊本スタディの値は、合併症を発症しなかった、進行しなかった研修対象者の数値から出されたものであると思われます。(調査報告や論文を見ていないので推測ですが多分間違いないでしょう。)

熊本スタディは、インスリン治療中の2型糖尿病の患者さん110人を対象に行われました。
半数が合併症を発症しておらず、半数はすでに合併症を発症しています。

研究期間は、登録期間は1987年から1988年、追跡期間は6年でした。

当時の標準的なインスリン治療と、強化インスリン療法(空腹時血糖値が140mg/dL未満、食後2時間値が200mg/dL未満、HbA1Cが7.0%未満、血糖値の変動が100mg/dL未満を目標)の治療効果の差を検証しようという枠組みで行われました。

研究期間

6年間の研究では、6年は大丈夫としか言えないのではないか、と考えることができます。研究対象者の罹病期間は1年から15年程度なので、それらの人いずれでも大丈夫ということならある程度信頼できるのかもしれません。

しかし例えば腎症は、「血糖値が高い状態が10~15年間続くと次第に毛細血管が障害され、血液の濾過(ろか)機能が障害され、糖尿病腎症を発症するといわれています。」らしいですから、6年の実績で大丈夫とは言えないのではないかと思います。

治療法

対象者は全員がインスリン療法で治療を行っています。インスリンを使用しない治療と空腹時血糖値、食後2時間値、HBA1cの傾向は異なる可能性はないのでしょうか。

糖質制限治療の場合は明らかに傾向が異なるので、熊本スタディの数値は参考にならない可能性があります。

対象者数

全体で110人はあまりに少ないのではないでしょうか。
例えば、空腹時血糖値110未満の人が何人いたかを推測すると
従来治療群(50名):164±50(標準偏差)
→平均値-標準偏差=114を下回るものは概ね15%弱で7人
強化治療群(52名):126±36(標準偏差)
→平均を下回るものは26名としてそのうちの110未満はそのうち40%として10人

ということは、空腹時血糖値が110未満の人は全体で17名になります。(実際の論文を見ることができればその数字は出ていると思いますが)
たった17人が合併症が発症しなかった、進行しなかったから大丈夫とは言えないのではないでしょうか。
(実際は20名かもしれませんが、それでも同じです)

ちなみに、熊本スタディのモデルになった1400人以上を対象にしたアメリカ・カナダでの研究では、数値が低くなればなるほど段階的に合併症が発症しなかった、進行しなかった人が少なくなるので、これ未満なら大丈夫という数字は出ていないようです。

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日本糖尿病学会の基準について

日本糖尿病学会の目標値は熊本スタディも参考にされているとのことです。もちろんそれ以外の研究や臨床データも参考にして目標値は設定されていることと思います。
糖尿病ネットワークによれば

Kumamoto studyにおけるこの結果は症例数が少なかったことによるのかもしれませんが、一つの目安となる数値であり、我が国の血糖コントロールの指標の根拠ともなっています。本研究は大規模臨床研究というには対象者の数が少ない(110人という対象者数の根拠は示されておりません)のですが、日本人を対象とした非常に貴重な研究であることには間違いありません。

だそうです。たった110人を対象にした研究が目安とされ、貴重な研究とされるということはそれだけ、患者を対象にした研究が困難であることを示しているのかもしれません。

困難な研究を行う研究者や実験台になる患者の方々には頭が下がります。そのおかげで目標値という目安が設定されているから参考にできるわけです。

しかし一方で、糖尿病の治療方針とか基準はその程度の確からしさなのだ、ということも患者として理解しておく必要がありそうです。

少なくとも私の場合、120代半ばの空腹時血糖値はそれでよし、とはできないようです。

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