日本人の糖質摂取量は減っていて脂質摂取量は増えている。だから糖尿病の原因が糖質摂取だという説とはおかしい。脂質摂取の増加が問題だ、という話がよく出てきます。このことについて考えてみました。
日本人の摂取栄養素の推移
出典は厚生労働省の「国民健康・栄養調査」です。
糖尿病専門医の見解「超ポジティブ糖尿病ライフ」より
下のグラフは、「超ポジティブ糖尿病ライフ」(2017 竹内雄一郎:日本糖尿病学会糖尿病専門医)から引用させていただきました。
このデータに関する著者の主張の概略は以下です。
「糖尿病患者は年々増え続け、・・・・しかし一方で、炭水化物(糖質)の摂取割合は、実はこの半世紀ほどの間、減少傾向が続いているのです。・・・・・一方、炭水化物に代わって脂肪の摂取割合が増えていることがわかります」
「栄養バランスの観点でいえば、日本人はむしろ脂肪の過剰摂取が問題であり・・・・むしろ糖質より問題視されるべきなのです」
「増える糖尿病の元凶を、糖質の摂り過ぎと決めつけるのは矛盾があるということです」
確かに、糖尿病が増えている、一方で日本全体で糖質の摂取は減っている、脂質の摂取は増えている、となると糖質摂取が少なさと脂質摂取の多さが糖尿病の原因、という仮説が考えられそうです。
患者としての実感とは異なります。なんだかおかしい?
糖尿病患者数の推移
「糖尿病患者は年々増え続け」については時系列のデータが十分には記載されていなかったのでデータが載っていなかったので、調べてみました。
糖尿病の患者数は
1990 | 149.4 万人 |
1993 | 156.5 万人 |
1996 | 217.5 万人 |
1999 | 211.5 万人 |
2002 | 228.4 万人 |
2005 | 246.9 万人 |
2008 | 231.7 万人 |
2011 | 270.0 万人 |
2014 | 316.6 万人 |
右肩上がりに増えています。
これは厚生労働省の「患者調査」の数値で、病院等で受診している人(外来患者と入院患者の合計)の推定値です。
糖尿病患者が1000万人、という情報を見た方もいらっしゃると思います。
これも厚生労働省の調査ですが、「国民栄養・健康調査」という調査です。
HbA1c(NGSP)値が6.5%以上の人を「糖尿病が強く疑われる」
HbA1c値が6.0%~6.5%未満を「糖尿病の可能性を否定できない」
と区分した推定値です。
画像は 糖尿病ネットワークから引用させていただきました。
既に治療している患者も、治療していないが患者と思われる人も増加しています。
日本人の摂取栄養素の推移-再考
栄養素摂取比率は30年間変化なし
さて元に戻って、摂取カロリーと栄養素のデータですが、こんなふうにも見えませんか。
1985年のデータ以降は糖質、脂質、たんぱく質の摂取比率はほとんど変化していません。しかし、糖尿病患者、疑わしい人は増えています。
ということは、糖尿病患者の増加は、栄養素の摂取比率ではない違う原因であると仮説を立てるのが自然のように思えます。
摂取する総カロリー数が減っている??
「国民栄養・健康調査」のデータを見ていると腑に落ちないところがあります。日本人の摂取カロリーが時系列に減る方向にあります。10年前、20年前より日本人の平均摂取カロリーが減っているのです。
1975年が平均2226カロリー、2016年が1865カロリー、40年で15%以上減っています。
健康意識、ダイエットブーム、等の影響との推測もあるのですが、普通に考えておかしくないですか。カロリーの高い外食もずいぶん増えたはずです。40年前はファーストフードもほとんどなかったですから。コンビニでおやつ、スタバでラテ、などの間食も40年前は少なかったと思います。食卓に並ぶ食材のカロリーも40年前は今より低かったのではないかと思います。
(ホリデーの記憶によれば、ですが)
ネット検索したらこんな情報がありました。
独立行政法人国立・栄養研究所のQ&Aです。
Q:エネルギーの摂取量ですが、国民栄養調査では2000年代は2000Kcalを割って、近年エネルーギーの摂取量は減少気味であると言われています。そのため、活動不足を肥満の原因として捉える向きがあります。
一方、ヒューマンカロリーメーターでは2,600Kcal程度であり、必ずしも摂取エネルギーは減少していないのではないかという意見もあり、栄養研ではどのように考えておられるのかお教え頂きたいと思います。(以下略)
*ヒューマンカロリメーターは、温度・湿度・流量が一定にコントロールされた室内でエネルギー代謝の測定ができる装置です。室内にはトイレ、洗面台、ベッドなどが備わっており、24時間以上の日常生活をしながら、各種運動の消費エネルギーや、基礎代謝などの微量なエネルギー消費を高い精度で測定することが可能です。(精密な測定ができる装置のようです)
この質問は、精密な測定と、栄養調査に差がありすぎるではないか、という質問とも受け取れます。
この質問について、研究者と思われる方の回答は
あくまで個人的な意見ですが、以下のように考えています。
・確かに、国民健康・栄養調査によると、エネルギー摂取量はやや減少傾向ですが、エネルギー摂取量は、一般に過小評価されることが知られています(Livingstone, J Nutr, 2003)。
また、概して、真の摂取量より「期待値(「こうありたい」という値)」に近づくと考えられています。その証拠?に、食事摂取基準のエネルギー必要量(←DLW法によるエネルギー消費量)と、国民健康・栄養調査のエネルギー摂取量は、大きく食い違っています。
そうして考えると、あくまで個人的な意見ですが、「エネルギー摂取量は、国民健康・栄養調査が示しているほど減少していないのではないか→調節が難しいエネルギー摂取量も、肥満の増加の大きな原因ではないか」ということも十分考えられます。(以下略)
とあります。
このQ&Aも参考になります。私は「栄養調査」の精度を疑っています。調査用紙に回答者が記入するのですから、記入の間違い、漏れなどは当然生じます。調査票に書かれた内容を栄養素ごとにカロリーに計算する際にも誤差はあります。国が継続して行う調査ですからいろいろと修正、改善はしているでしょうが、継続した調査方法は、食生活の変化をとらえきれない可能性があるような気がしています。
日本人の平均年齢
もう一つ気になる点があります。平均年齢です。下は国勢調査による日本人全体の平均年齢です。
1950 | 26.6 |
1955 | 27.6 |
1960 | 29.0 |
1965 | 30.3 |
1970 | 31.5 |
1975 | 32.5 |
1980 | 33.9 |
1985 | 35.5 |
1990 | 37.6 |
1995 | 39.6 |
2000 | 41.4 |
2005 | 43.3 |
2010 | 45.0 |
カロリーの総量や、栄養素の比率を30歳と45歳で比較してもあまり意味はないと思います。数十年という単位でみると平均年齢の違いにより、同じ集団とは言えないのではないでしょうか。これだけ平均年齢が異なる集団を、栄養所の摂取の点で特徴が同じは同一傾向の集団とみることに無理があります。
結論
この栄養調査のデータは、糖尿病の増加の原因を推測することには、適していないデータではないかと思います。少なくとも栄養素の摂取比率を時系列で比較するのであれば、平均年齢の違いを何らか考慮する必要があるのではないでしょうか。
では糖尿病増加の原因は何なのか、データからまた次の記事で考えてみたいと思います。
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