ケトン食が肝臓のインスリン抵抗性を高める という研究
糖質制限反対派のブログに、短期間(3日間)のケトン食が肝臓のインスリン抵抗性を高めるという研究が紹介されていました。紹介されている論文の原文はこちら
Short‐term feeding of a ketogenic diet induces more severe hepatic insulin resistance than a obesogenic high‐fat diet
このブログでは、
肝臓でのインスリン感受性の低下が、耐糖能障害になる
ケトン体ダイエットは、糖尿病患者の体内を完コピするダイエットである
と言っています。
ケトン食は単純化すると糖質制限よりさらに糖質とタンパク質を抑えて脂質を取る食事法ですから糖質制限をしている私としても気になります。
この研究に否定的な主張
ケトン食で、胃がん手術後に予後不良と宣告されながら、ケトン食でサバイバーとなった「こたろうのブログ」では、この研究について反論している「www.diabetes.co.uk」の記事を紹介し、以下のように述べています。
しかし次の記事によると、この実験にはカラクリがあり実験に使用されたネズミの餌は硬化油(人工のトランス脂肪酸)だったそうです。
インスリン抵抗性が高い(効かない)とさらに追加インスリン分泌が必要になるので血液中のインスリンレベルは上昇するはずです。しかしケトン値が上昇するとインスリンレベルは下がります。両者は反比例する性質があるのです。なのでこのネズミの実験はどう考えてもおかしいです。ケトン食で糖尿病が改善されたという報告はたくさんありますが、(ケトン食で)糖尿病になるという話は聞いたことがありません。ただし人間の場合でも人工のトランス脂肪酸は低めに抑えたほうが安全かもしれません。
私が考えたこと
同じ研究をめぐっても、さまざまな見解があります。専門知識のない糖尿病患者はどうしたらよいのでしょうか?
私なりの考えを書いてみます。参考になる方は参考にしてください(参考にならない方は無視してください)
どちらの見解が正しいのか素人には判断できない
研究のアブストラクトも読んでみましたが、専門用語の意味が分からないと評価できない=日本語で書いてあっても私には判断できないものでした。
従って、上記の二つの見解のどちらが正しいのか私には判断できません。
少なくともどちらかの説を見てそれが正しいと判断するのはリスクがあると思います。
一般化して考える
この件だけでなく、これまでに見てきたいろいろな情報から一般化して考えてみました。
専門家の間でも意見が分かれている
糖尿病治療について、あるいは治療としての糖質制限について「何が正しい」はまだ定まっていないので、いちいち踊らされないようにしたほうがよい。
「正しい」と断定する主張にはむしろ注意深くなったほうがよさそう。
研究も疑ってみる
研究は客観的と思いたいですが、恣意的(主張したい結論に都合の良い実験やデータを集める)こともあるようです。個人的にはメタ解析というやり方は対象を定義するときに相当に厳密にしないと恣意的になりやすいと思います。
そもそも論文の多くは仮説検証です。最初に結論があってそれを証明できるような実験や調査を行うのが普通です。だから日本糖尿病学会からは、糖質制限がダメという論文のほうが多くなるのはあたりまえともいえるわけです。
人間のメカニズムは複雑
人間のメカニズムは複雑で、一部分への影響が全体をあらわすものとは限らないと思います。
仮にこの研究の通り、ケトン食で肝臓のインスリン抵抗性が高まるとして、糖尿病患者がケトン食を行うと糖尿病が悪くなる、ことを証明したものではありません。
人間の糖尿病患者のケトン食の長期経過を見た研究であれば、吟味する価値はあります。
ブログ情報は偏りの危険あり
ブログ情報は、そのブログ主に都合の良い情報しか載せていないものが多いです。
研究結果などを紹介されると、科学的な真実を見せられたような気にならないようにしたほうがよいと思います。
また、特定の情報源だけを見ているのは危なそうです。
とはいえ、あれこれ見てすべて信じていると振り回されてしまいます。
「私はこのサプリを飲んだら健康になりました」
「私だけでなく多くの人がこのサプリで健康になっています」
「だから皆さん個のサプリを飲んで健康になりましょう」
こんな話は広告にうさん臭さを感じることがあると思うのですが、糖質制限賛成、反対も時にそれと変わらないかも、と突き放してみることも必要だと思います。
特に、信じたくなる心や心配になる心をついてくるような情報には注意したほうがよさそうです。
結論として
結局、人間での長期のデータ、についてその信頼性を吟味すること、それ以外の断片的なデータには振り回されないことではないでしょうか。
かつ私の場合、食事については、健康な人を対象にしたデータではなく、2型糖尿病患者についてのデータかどうかを吟味する必要があります。
例えば、健康な人が玄米を食べて健康になっても、私の場合食後高血糖は防げず、合併症まっしぐらの可能性が高そうなので。
この研究について
この研究について、素人なりに思ったことです。憶測です。邪推といってもよいレベルです。
・穀類が主食のマウスの実験だとケトン食はおかしくなる可能性がある=人間に摘要できるのか疑問(東北大学のマウス実験を思い出してしまいました)この研究のスポンサーは誰?
・3日間というのがどうも怪しい。何らかの刺激(食事も含めて)に対して、初期の反応と中長期の反応が異なることがあるのはよくあることです。もしかしたら7日だと違いが出ないから3日間の反応を発表しているのかも。
・「3日間の短期間のこと、マウスの実験であること、肝臓のインスリン抵抗性が高まること」これは実験の結果として事実です。それと「人間がケトン食を長期に継続したときの影響」はどんな関係があるのか?糖尿病患者と関係する研究と言うには、何段階もの仮説が必要になるのではないか。つまり「だから何なの?」というレベルの話ではないか。
コメント
初めまして。
ブログ村から来ました。
管理人さんの言う通りだと思いますよ。
出版バイアスは否定的な論文は、公開されにくくなりますからね。
特に研究は企業が資金を出してるケースは多いです。
因みに、以前ラジオである医者(もう数年前で名前は忘れました)が、
製薬会社が医学界に数千億円も寄付していると言ってましたよ。
だったら薬代を安くして、と思いましたが(笑)
何しろ、ひとつのメカニズムで誰もが同じ反応をしたら、
人類、数百万年持たないです。
これは「生に快楽、死に恐怖」があるから人類史があるのと同じだと思います。
自分は、糖質制限・カロリー制限ともに肯定派です。
人により反応も違い、選択肢は多い方が良いと思います。
多すぎても迷いますが。
ろんり~うるふさん
初めまして。コメントありがとうございます。
ブログ、拝見しています。私は筋トレ苦手で、すごいなあとただただ感心、感嘆しています。
私も糖質制限・カロリー制限ともにありだと思います。脂質制限もありだと思います。どれも効果が出ているようですから。
どんな場合、どんな人に何が適しているか、医療もそのサポートをしてほしいものです。
最後は患者が自分で決めないといけないですが。