糖尿病食事療法に関連する論文に関心が薄れた理由-その2

食事療法に関連する論文、PFCバランス(蛋白質と脂質と炭水化物の比率)の疾患や死亡率などに関する論文に興味を失った理由について、しばらく前に記事にしましたが、その続きです。

異なる結果(相反する結果)が否定されない研究である

糖質制限食は死亡リスクが増加する

前回の記事では、糖質制限否定派と見られている能登洋氏の論文を取り上げました。

糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
(対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)、総死亡数は1万5981人。メタアナリシスの対象として選択された論文は全9件)

炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスク増加する

昨年ランセット誌にのった論文が話題になりました。

先進国から途上国まで18カ国で「糖質」について調査
高所得国(カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦)、中所得国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、イラン、マレーシア、パレスチナ自治区、ポーランド、南アフリカ、トルコ)、低所得国(バングラデシュ、インド、パキスタン、ジンバブエ)の計18の国・地域で調査が実施されました。
2003年1月1日時点で35~70歳の13万5335例を登録し、食事の摂取量を「食事摂取頻度調査票(FFQ)」により調査し、そこから2013年3月31日まで、平均値7.4年間調査
栄養素は、糖質(炭水化物)、脂質(総脂質、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)およびタンパク質の摂取量で、摂取エネルギー比率に分類して検討。
平均摂取量で炭水化物の摂取量は次の5群(46.4%、54.6%、60.8%、67.7%、77.2%)、脂質も5群(10.6%、18.0%、24.2%、29.1%、35.3%)、たんぱく質も5群(10.8%、13.1%、15.0%、16.9%、19.7%)に分類されました。

結論は以下の通り

①炭水化物の摂取量が多いほど全死亡リスクは増加し(60%を超える群では高かった)、逆に脂質の摂取量が増えると全死亡率が低下する相関が見られた。
②脂質は総脂質および種類別のいずれも摂取量が多いほど全死亡リスクは低下した。
③飽和脂肪酸の摂取量が多いほど脳卒中のリスクが低下し、心筋梗塞または冠動脈疾患との関連性は認められなかった。

「Business Journal」に掲載されていた吉田尚弘氏(ブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」のドクターカルピンチョ氏)の記事を参考にしました。

対極の結論の論文の存在を糖尿病患者はどう見ればよいのか

対極の結果の論文が存在し、私は、どちらが正しいという議論にならないことに注目します。
これも何度か書きましたが、科学(自然科学)は真実は一つで、学問はそれを解明すると私たちは思いがちですが、このテーマ(たんぱく質、脂質、糖質の摂取比率と疾病・死亡の関係)はそうではなさそう、と理解しています。

つまり、この手の論文が何本出ても結論は多分出ないだろう=その程度のデータだ、ということです。

調査方法が信頼できるものであるか、結論がどの範囲で一般化できるかなどの検討をすることが必要でしょうが、それはその分野の専門家でないと難しいと思います。

専門家は、自説にあう論文だけを取り上げて自説の主張の根拠にしている場合も多く、私たちは論文の結果ではなく、専門家の自説を聞かされているに過ぎないこともままあることも理解しておく必要がありそうです。

(結果が正しいとして)自分のどの程度影響のあることなのか

糖尿病患者での研究ではないことが多い

食事で摂取するPFCバランス(蛋白質と脂質と炭水化物の比率)の調査研究は多くの場合健康な人(糖尿病でない人)のデータであることが多いです。

糖質の代謝に異常がない人のデータが、糖質の代謝に異常のある糖尿病患者にあてはまるのでしょうか。

また、糖質の摂取比率が高いほど何らかの疾病の発症率が低いとして、それが糖尿病患者に当てはまったとしても、その代わり糖尿病網膜症や腎症の発症が高くなっているかもしれません。

糖尿病でない人の調査研究が糖尿病患者にとって有効なのか(あてはまるのか)は大いに疑問ありです。

数値の範囲の問題

糖質制限食は死亡リスクが増加するとする能登論文では、糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較しています。

炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスク増加するという、ランセットにのった論文では、炭水化物60%以上の群で死亡リスクが高いとのことです。

私の場合、食後血糖値を180以下に抑えるために、一日の糖質量は50g程度、摂取比率にすると10%弱です。

となると、炭水化物60%以上の摂取は私には無関係だと感じますし、30~40%と60~70%の比較も私の現在の食事とは関係なさそうに思います。

 

糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群の比較で、30~40%のほうが死亡リスクが高いから、10%ならもっと死亡リスクが高い、との論調も見かけますが、それは、数値が線形に変化する という仮説が成り立つ場合だけで、それが実証されていなければ単なる仮説です。

なぜ炭水化物摂取量が少ない方が死亡リスクが高いのかが検証されれば、数値が線形に変化する仮説が支持できるかを考えることができると思いますが。

死亡リスクの増加の意味

能登論文を例にとると、死亡リスクというのは、追跡期間5~26年の調査対象者の死亡率(死亡者÷調査対象者)の比較を意味するようですが、それは個人にとってはどういう意味になるでしょうか。

個人が死ぬ確率は1です。では死亡リスクが高いということは寿命が短くなるということでしょうか。寿命が短くなるとしたらどの程度短くなるのでしょうか。病気になる確率が高くなるのでしょうか?病気になる確率が高くなるとしたらそれはどの程度を言うのでしょうか。

統計の数字に踊らされすぎ?という気がしています。

2型糖尿病患者である私の場合、確率でいえば、合併症の発症比率との比較もしたいところですが、そのようなことがわかる調査研究を今のところ見たことがありません。

統計的に有意である、ということの意味と、実際の生活にどの程度影響があるか、は分けて評価する必要があります。

医学の専門家、医療統計の専門家は私などよりそのことを深く理解されているはずですが、その視点からのコメントはあまり見かけないように思います。

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