昨年の一時期、食事療法に関連する論文、PFCバランス(蛋白質と脂質と炭水化物の比率)の疾患や死亡率などに関する論文に興味をもって、素人なりに読んで理解しようとしていました。
そして、結果的に関心が薄くなりました。その理由について書いてみます。あくまで私の考えでかつ、ひねくれた考えのような気がします。
何度も引用される(論文にではなく糖質制限反対のプロパガンダに)能登論文を材料に書いてみます。について
この論文の要旨は以下です。
糖質制限食は死亡リスクが増加する。
糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
(対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)、総死亡数は1万5981人。メタアナリシスの対象として選択された論文は全9件)
これについて糖質制限派の医師、カルピンチョ先生は、ブログで以下のように記事にしています。
ピックアップされている論文は、同じ研究グループのものが半数以上を占めています。そのグループのひとつは、昨年6月にBMJに「糖質制限は危険だ」という論文を出してBMJ読者から「科学的にpoorだ、編集者の見識を疑う」と言って、ぼろくそにけなされているあの研究グループです。
そして不思議なことに、彼らの論文よりもImpact Factorの高い雑誌に掲載された「糖質制限は危険ではない」とする複数の論文は検討対象から外されています。
つまり、このメタアナリシスは、最初から恣意的に偏りを持って構成されている感じが否めません。
また、江部先生は、ブログで以下のようにコメントしています。
結局、能登論文、折角信頼度の高い、文献30をもってきたのに、信頼度ゼロの文献9などを加えたために、メタ解析結果が全く信頼のおけないものになってしまっています。
つまり玉の論文の結論を、石の論文が足を引っぱって、違った結論にしてしまっています。
文献30と文献9では、アンケートの信頼度が月とスッポンであり、データを混ぜること自体が、文献30に対して失礼です。
意図的にこのような信頼度の低い論文を選ばれたのなら、アンフェアとしか言いようがありません。
二人とも、恣意的な論文の選択(都合の用意結果が出る論文を選択している)可能性を指摘しています。
私は、論文の著者の能登洋氏の書いた「糖尿病診療のエビデンス」という本を持っています。EBM(エビデンスベーストメディスン)の専門家でもあるようです。アマゾンで検索すると医学統計、臨床統計の書籍を何冊も出しているようです。
このような専門家が、論文を書く際に恣意的と指摘されるようなお粗末なやり方をしているとは考えにくいところです。
この能登論文がどの程度信頼のできるものなのか、正直私には判断できません。
ただこのような憶測はできます。
江部先生とカルピンチョ先生の二人の専門家が示し合わせたのではなく同じ結論(=論文の恣意的選択の可能性)に到達したのなら、能登論文の評価だけではなく、このようなメタアナリシスの論文には、恣意的選択を行ったケースがよくあるから、ではないか。
一般論として、メタアナリシスは自分の主張に都合の良い論文の選択をすること(検索ワード、対象期間、ジャーナルの選択など)などが可能なので、どのように選択したのか、その選択方法が妥当なのかを吟味する必要はあるはずです。
医学の専門家には怒られるかもしれませんが、メタアナリシスを高位のエビデンスとするエビデンスレベルという枠組み自体、この分野の研究の限界を示しているように思います。
メタアナリシスは、同じ条件でない研究データを合算するのですから、様々なノイズが発生します。それを高いレベルの証拠と扱わざるを得ない学問(真実を研究結果として明らかにできない)学問、研究のように思えます。
正反対の結果が出ている研究もあり、「いちいち研究結果に振り回されてても、、、」が私の考えです。
この論文の著者の能登洋氏は、以下のコメントをしているようです。江部先生のブログからの引用です。
今回の検討結果をもって炭水化物制限食に対して賛否を論じることはできないが、薬物治療を行っている糖尿病患者については、極端な炭水化物制限により低血糖リスクが高まることを鑑み、バランスよく食事を摂取することの大切さを伝える必要性があると考えられる。
アンダーラインの部分は、研究の結果とは全く無関係の能登氏の主張です。ですが、マスコミからの情報として流れてくるときは、このような解釈が独り歩きしていることが多いと思います。
ますます、「こんな情報に振り回されても、、、」と感じてしまいます。
そもそも、食事のアンケート調査に基づく研究が信頼がおけない可能性があります。
これらのことから、PFCバランス(蛋白質と脂質と炭水化物の比率)の疾患や死亡率などに関する論文に関する関心が薄くなっています。
他にも理由はあります。
またいずれ書いてみようと思います。
コメント